俺たち男軍は、ゾロゾロと更衣室へと向かった。
意外ではなかったが他の部屋同様、気味が悪くなるほどに綺麗に整えられた景色がそこにはあった。
そんな事を思いながら着替える。あまり人の裸を見たりするのは好きではないし、見る気もさらさらないのだが、1人での入浴が禁止されているなら仕方ない。そう大雑把に片付けて、俺らは浴場へと足を運んだ。
温かい湯気をまとった空気がその場に溢れかえっている。白く霧がかかったように霞んだ景色でも、綺麗な浴場が見えた。
ひとりの子供の影と共に。
呟くように声を上げる真。
その言葉に、皆が固まった。
下半身にタオルを巻きながら、フォメットが冷静に言えば、皆で少しの間話をして、最初に俺とフォメットさんが2人横並びになって浴室へ入ることにした。
浴室は温泉のようになっていて、そこにはいくつかの湯張りされた岩風呂があった。しかしあるのは高い位置への換気扇のみ。ガラスがあって外は見えたが、窓のように開閉はできないようだった。
表情はあまり変わらないが、ほんのりと頬を赤らめて気持ちよさそうにしている蒼ちゃん。この施設はクソみたいだが、少しでも蒼ちゃんが癒されてるならこの温泉のような浴室だけは悪くないかもな。なんて少し、ほんの少しだけ思った。
そんな俺の顔を、ひとりの少女が覗き込む。
「やばい。声をかけてはいけない。気づいたと悟られてはいけない」そう思い、泳ぎそうになる瞳で先ほどまで見ていた一点を見つめて、気づかないふりをした。
しばらく知らんぷりをしていれば、少女はどこかへと消えてゆく。
消えると言っても、スゥゥなんて薄くなっていく霊的な感じではなく、お湯の中に潜って行く感じで、気泡ひとつ出さずにゆっくりと沈んで行った。
深さなんてない。俺の腰程の高さの水位しかない。
そして、俺は気付いてしまった。
ということは、1人で入浴した人が死ぬ原因は———
そこまで考えたところで、真が俺に声をかけてきた。
彼から声を上げることなんて珍しいな、なんて思いながら、軽く返事をした。
どうやら、真も同じようなことを考えていたらしい。
そんな話をしていると、蒼ちゃんが小さく波を作りながらこちらへと向かって来た。
そう可愛く小首を傾げる蒼ちゃんに、教えないわけがなくて。ただ、俺より最初に口を開いたのは真だった。
そう言って、真は小さく少女の方を向いた。
今とは違う湯張りにいる少女は、ただじっとこちらを見ている。
話をしばらくしていれば、脱衣所のガラス扉の奥にある時計が、入浴してから45分ほど経過していることに気がついた。
辺りを見渡してみれば、少女は今フォメットの顔を覗き込んでいた。少々困惑したような笑顔で少女の顔を見つめ返す彼に、「俺はそろそろ出るッスよ」と伝えて、ついて来た蒼ちゃんと共に浴室を後にした。
俺らが浴室から出て10分後くらい。
真とフォメットが揃って出て来た。
2人とも最後まであの少女の正体は分からなかったみたいで、あまり納得していないような表情をしていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。