第11話

第二章 6
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2023/05/23 01:32 更新
家を出て、早朝のまだ静かな住宅街を歩く。
このぐらい時間が早いとまだこのあたりは静かで、いつもの暴動なんてうそみたいに思える。


でも、僕はいつもの癖でパーカーを目深に被って歩いている。
そして、ずっと別のことを考えている。


暴動が起こっていることを目の当たりにしたくなくていつもそうしていたら、癖になってしまったのだ。




──でも今日は、その癖のせいで後ろから近づく足音に気づくことができなかった。
リョウ
…?
誰かに肩を叩かれて振り返ると、まったく知らない男性が虚ろな瞳で僕を見つめていた。
リョウ
あの、その、ご、ごめんなさい…
僕がこの人に何かしてしまったのかと思い、とりあえず謝る。

でもその人は、僕の謝罪には反応せずに話し始めた。
男性
ねぇ、君…俺を殺してくれないか
リョウ
っ⁉︎
男性
君のせいとは言わない。君に危害も加えない。ただ殺して欲しいんだ。
俺を、幸せにしてくれ…
僕を見つめるその瞳は、ずっと虚ろなままだった。

差し出されたナイフをそっと戻し、僕は言葉を続ける。
リョウ
…僕に、あなたを殺す権限なんて、
殺したって殺されたって何もならない。そんなこと、みんな本当はわかっているはずなのに。
男性
もう、これ以上は無理なんだ…頭がおかしくなってしまう…
おかしくなってしまう前に、ひと思いに殺してくれ…
苦しそうな目でこちらを見つめる彼に、胸が苦しくなる。
もうやめてほしい、と叫びたくなる。
リョウ
…っごめんなさい、僕には…できないです……!
それだけを絞り出して、僕は逃げた。逃げてしまった。
店まで走り、大急ぎで買い物をして、違う道を通って帰った。

もうあんな思いはしたくなかった。
────バタン。


家に帰ってきた、という安堵感が僕を包み、体から一気に力が抜けた。
リョウ
っはぁ、はぁ、はぁ…………
マオ
…どうしたのリョウ、そんなに慌てて……
リョウ
ん…ごめん、なんでもない。外に虫がいたからびっくりしちゃっただけ。
マオ
そうなの?
もー、びっくりしたんだからね?
急に大きな音立ててドアが開いたと思ったらリョウが息切らしててさぁ…
リョウ
それは…ごめん。
マオに心配かけられない。───そう思って嘘を吐いた。


でも、もうあの道は通りたくなかった。
あの日から約二週間。色々なものがまた足りなくなってきて、僕はまた買い物に行くことになった。

───本当は行きたくなかった。


あの日の彼の縋るような目が。
苦しそうな声が。
一人で背負うには大きすぎる絶望が。

僕の脳裏に焼き付いて、忘れようとしても忘れられないのだ。



あの日から、外を見るだけでも僕は思ってしまう。


この空の下にはどのぐらいの人がいるのだろう。


──そしてそのうちのどれだけが、彼のような思いを抱いているのだろう。と。
リョウ
…行ってきます
ヘッドフォンを頭にかけ、数週間ぶりに外へ出る。
リョウ
…っ
頭が痛い。身体が重い。
これじゃあまるで、雨水で錆びたロボットだ。

もし機械だったら動かなくなっているであろう自分の身体を無理やり前に進める。
ヘッドフォンの外からうっすらと聞こえる色々な声は、この前よりやけにはっきりと聞こえた。


───あの人 ・  ・  ・ が死を乞う声が、また何処かで聞こえた気がした。

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