魔都ヨコハマを裏で操る恐ろしいマフィア……定説はそれだが実態は闇の中……。
世にも恐ろしいポートマフィアの五大幹部・中原中也がボスの森鷗外に呼び出されたのは丁度夕に染まる頃だった。
虚無空間の首領室で鷗外は口を開いた。ほど十メートル離れたところでは、金髪の活発そうな幼女・エリスが一人楽しそうにお絵描きを楽しんでいる。
ボスからの直々の申し出……これは何かあるな、と直感する。
中也も緊張感を持って答える。
厄介だと感じた。だが鷗外はこれにわずかに首を振って
接続詞に重みがかかる。中也もここからが本腰だと意識を切り替えた。
宗教みたいな名前だ、と中也は思った。貧民街では闇市薬物も流行るが、それと同じくらい宗教も流行る。
縋れるものが何か一つでもあれば心はうんと楽になるんだろう。心は楽になるかもしれないが、身は滅ぼす。
もっとも、さらに酷い場所なら宗教だって流行らない。なぜなら信じることすら無駄な労力にしかならず、そんな場所で必要なのは心ではなく身体なのだ。心の保全など意味がない。心の保全ができた人間はそんなところはとうに去っている。
その目は一つの答えしか望んでいなかった。彼らマフィアの血よりも濃い掟______。
日は真っ黒に染まって、月を隠し星が瞬く。夜が、来る。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。