第2話

幸福屋
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2021/09/09 08:27
魔都ヨコハマを裏で操る恐ろしいマフィア……定説はそれだが実態は闇の中……。

世にも恐ろしいポートマフィアの五大幹部・中原中也がボスの森鷗外に呼び出されたのは丁度夕に染まる頃だった。
森 鷗外
森 鷗外
君に、頼みたいことがあるんだ……
虚無空間の首領室で鷗外は口を開いた。ほど十メートル離れたところでは、金髪の活発そうな幼女・エリスが一人楽しそうにお絵描きを楽しんでいる。

ボスからの直々の申し出……これは何かあるな、と直感する。
中原 中也
中原 中也
と、いうと、なんでしょう、ボス
中也も緊張感を持って答える。
森 鷗外
森 鷗外
最近、ある事件のようなものが流行ってね……。うちの領土でどうにも変な店が薬物を垂れ流してるそうなんだ
中原 中也
中原 中也
つまり、俺たちの知らないところでヤクの売買が行われていると……?
厄介だと感じた。だが鷗外はこれにわずかに首を振って
森 鷗外
森 鷗外
いや、薬物じゃないかもしれないんだが……。「幸福屋」とか言う名前の店が時々現れては、そこに訪れて“幸福”を買った人間が変な形相で死んでるのがところどころで見つかるらしい。まあどう考えても極度の興奮状態に陥る合成薬物の仕業だ。
だが……
接続詞に重みがかかる。中也もここからが本腰だと意識を切り替えた。
森 鷗外
森 鷗外
薬物を手に入れるのは簡単じゃあない。ましてや私たちの場所でよそものが手に入れるだなんて、不可能に等しいよ。聞けば、その幸福屋とやらは一人らしいじゃないか。薬物じゃない可能性________異能力者かもしれない。どんな異能かはわからないが、これ以上好きかってされる前に実態くらいは掴んでおきたいね
宗教みたいな名前だ、と中也は思った。貧民街では闇市薬物も流行るが、それと同じくらい宗教も流行る。

縋れるものが何か一つでもあれば心はうんと楽になるんだろう。心は楽になるかもしれないが、身は滅ぼす。

もっとも、さらに酷い場所なら宗教だって流行らない。なぜなら信じることすら無駄な労力にしかならず、そんな場所で必要なのは心ではなく身体なのだ。心の保全など意味がない。心の保全ができた人間はそんなところはとうに去っている。
中原 中也
中原 中也
異能力者が相手かもしれないから、俺を呼んだんですね?
森 鷗外
森 鷗外
もちろん。平マフィアに能力者の相手はできない。人員の無駄死をさせる気はない。さまざまな証人の証言から次現れる時間を割り出した。明後日の二十一時。倉庫街のA棟二十九番倉庫だ
中原 中也
中原 中也
……了解しました。我々にあだなすモノであった場合______どういたしましょう?
その目は一つの答えしか望んでいなかった。彼らマフィアの血よりも濃い掟______。
森 鷗外
森 鷗外
決まっているじゃないか、________殲滅だよ



日は真っ黒に染まって、月を隠し星が瞬く。夜が、来る。

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