訪れた沈黙。
目の前の青年は、どこか風に揺れるようにふよふよと小さく揺れていた。
彼からは、何かが垂れていた。
赤い、水のような液体。
彼から滴っているのは、血液だった。
その時、プツンと音が聞こえ、周囲の植物に絡みついていたツタが千切れて落ちた。
2人揃って、一歩後ずさる。
そう一言だけ告げて、青年は振り返る。
彼が振り返ってそこにあったのは、光る片目と月夜に反射した涙。
ふと横を見れば、白は涙目になっていた。
どうやら、2人は知人らしい。そのうちボロボロと涙を流し始めた白は、何度も彼の名前らしき言葉を呟いていた。
透き通っていて滑らかな声。男か女かわからなくなるくらいのそれに、少々気味が悪く感じた。...が、誰かの元恋人、しかも死人を悪く思うのもよくないので、その考えはすぐに消した。
その時、聞き覚えのある声が背後から聞こえる。
そんな口論とも取れる罵り合いをしながら、まぁ本来なら致命傷な傷を負った赤を担いで連れてきた青。そんなやつ置いてくりゃよかったのにとも思ったが、まぁ放置してくたばられるよりはずっといいか。
冷酷な声をした青年は、白と何か関わりがあったようで、赤に気が移るまでずっと白に問いをぽつぽつと投げかけていた。
相変わらず悪態まみれの赤の頭を引っ叩いて、「いてっ」と彼がこぼすか否か。再び、目の前の青年が口を開いた。
にこやかに笑い、風が彼の周辺でそよそよと囁く。
花弁が舞い、月明かりが照らすそこは、とても美しかった。
ニコニコと不気味に微笑む青年。そんな彼の笑顔から目をそらし、ケッと目つきを悪くさせる赤。そんな事してもただ機嫌の悪い女性にしか見えないと言ったら多分俺は殺される。
そんな悪態を吐く赤にも嫌な顔せず、青年は言葉を続けた。
そこまで彼が言い終わるか否か、白が声を上げた。
場は再び凍りついた。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Single_lavender_flower02.jpg
界 : 植物界
門 : 被子植物門
網 : 双子葉類網
目 : シソ目
科 : シソ科
属 : ラヴァンドラ属
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!