俺らが再び、6時間ぶりに出向いた花園。時刻は大体0時前後。闇夜に包まれた花畑、ふと風が吹いた。
ひゅぅ、なんて抜けた音。
風の音に合わせて、花が緩く穏やかに踊った。
後ろから、声が聞こえて、慌てて振り返った。
酷く驚いた様子の白は、心臓を押さえていた。相当驚いたのか、息も荒い気がする。俺はそんな彼に声をかけた。
沈黙。当然の如く、その静けさを引き裂いたのは赤だった。
そう言ってやれば、「えーー」なんて文句をありげに声を吐く。本当、子供っぽいというかなんというか。...ガキ臭いって言葉が似合うか。なんて、バカにしすぎかな。ただ、子供らしいのは事実だ。
コイツ...勘が変なところで鋭いな。もちろん、大正解。白も図星をブチ当てられて、なんと言おうか迷っているのか静かに小さく俯いた。
ケタケタと笑い声を上げる赤。コイツに倫理観はないらしい。不謹慎な事に気づいていないのか。
後ろから駆け足で近づいてくる幼馴染。赤の腕を掴んで引きずり、帰ろうとした。
ジタバタと足をバタつかせながら抵抗する赤色。そんな彼の唯一傷ついていない首根っこをがっしりと掴み、引きずっていく。
場には、再び沈黙が訪れる。
1、2秒してハッと我に帰り、持ってきていた懐中電灯で彼の体を照らした。
包帯を解いて患部だった場所を見れば、確かに切断されていた腕がほぼくっついて、ケロイド状になっていた。
おかしい
こんなに早く、治るわけがない。
薬だって、簡単な消毒と痛み止めと炎症どめくらいだ。
ほんと、コイツはピクミンかと怪しくなる程度には人間離れしている。
なんて笑う赤は、まぁ....もう信じるほかなかった。
そんな彼の身体の不思議について話していると、ふと、歪な何かを突き刺す音が、「ゴギュッ」と聞こえた。横にいた赤色が勢いよく前に出る。
状況が把握できていない赤は、瞳を小さくして手を振るわせる。
彼の腹部からは、大きな棘が突き出ていた。
背後から刺されたその大きな棘。バラのようなものか。
そうだ、彼の腹部には、バラの棘が刺さっている。
彼の口から、血が溢れる。
棘が抜けないよう、青が必死に抑えていた。
俺と白はただ唖然としているだけ。
ふと、我に返り、棘が刺さった方向、赤の背後に目をやった。
誰もいない。
しかしその奥。赤色がいた方向の茂みの奥に、誰かがいた。
それには白も気づいていたようだ。白は青に応急処置を頼んで、逃げていったそいつを追って行った。
青の静止も聞かず、僕は勢いよく棘を抜いた。
塞がれ!!塞がれ!!
もうそのことしか考えていなかった。
意識が遠のいていく。
死ぬとかそんな感じじゃない。ただの睡魔。
ボクは素直に意識を手放した。
しばらくして、ボクは目が覚めた。
自分のお腹を見れば、身体に巻かれていた包帯がお腹に移されて、ぐるぐるになっていた。
3、4時間くらい寝たんだと思う。まだお腹は痛いけど、止血はもう終わっていた。
「よかった」「よかった」と何度も連呼する青。
ボクなんかが生きてて嬉しそうにするやつなんて、本当に久しぶりだ。
向こう、と、ボクの事を刺した人が言ったであろう方向を指差す青。
ボクは、痛みに歯を食いしばりながらそちらへ向かおうとした。
そう言い終わるか言い終わらないかで、お腹に急な鋭痛が走る。
ボクは、青に抱き抱えられていた。
ドクターは普段運動をあまりしないからか、肩で息をしていた。
足は速いが、息が上がるのも早いらしく、少々息苦しそうに呼吸をしていた。
目の前には、逃げる事を諦めた青年が立っている。
あぁ、また、会えた。
http://hamakazuchan.la.coocan.jp/flowers/Sep-yukihanasou-17-2.jpg
和 名 : ゆきはなそう(雪華草)
英 名 : large spotted spurge
学 名 : Euphorbia hypericifolia cv. Diamond Frost
別 名 : ユーフォルビア・ダイアモンドフロスト
科 名 : トウダイグサ科
属 名 : トウダイグサ属
種 類 : 一年草
花 期 : 春~秋
原産地 : 園芸品種
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。