真っ先に口を開いたのは、キノコ。
「何十年も」なんて言う割には精神年齢が幼いが、あまり触れないでおこう。キノコの方向へ身を乗り出して、葉をぶんぶんと騒がしく揺らす赤色に、白が告げる。
そう白が訊けば、赤は「う〜ん」なんて唸りながら、パッと閃いたかのように顔を明るくした。
彼が話していた「友達」と別れたのは生まれて間もない頃で、その友達と死別?してから死に戻りを身につけた。と言うことは、友人と別れたのは1回目の命の時だ。もう何百年前なのかも分からない。
「あぁ、その点は」とキノコが捕捉してくれた。どうやら、ある一定の目的や願いがある霊に関しては成仏や消えたりせずに生き続けられる?らしい。
叫んだのが響いたようで、赤は少し前にキノコに刺された腹部を押さえた。
その時、ガラ、なんて音と共に更にうるさい奴が帰ってきた。
「どこに行っていた?」なんて訊けば、「ん、ちーっと人手不足に突っ込んでた」なんて疲労混じりの声で返される。
「仲が良いことで」と笑うキノコ。彼は青の前に浮くと、軽く自己紹介をした。
礼儀はわきまえているのか、深々と礼をしたキノコ。かしこまった事が苦手な青は「頭あげて?」としょぼしょぼした顔で焦っている。
こてんと首を傾けたウサギは、これはこれで不気味な生気のない笑顔を浮かべていた。彼女はいつもそうだ。笑顔は笑顔でも、不思議な、どこか光のない笑顔を浮かべる。瞳はキラキラと金色に輝いているのに。
ふと、口から漏れた。
そう発言を取り消せば、ウサギと赤は見つめあった。
そうじゃなくて、雰囲気が。そう言おうとも思ったが、なんとなく顔面も似てなくはない気がする。
相変わらず見つめ合っている二人は、「おん。似てないわ」なんて赤が言うのとほぼ同時に二人揃って首の向きを変えた。
ヒカリは相変わらずウサギの周りを楽しげに飛び回っている。足取り?こそゆらゆらとしたマイペースなものであるが、それでも楽しいという感情は伝わってくる。
変人が多いな、この医務室は。
その時、ふとノック音が聞こえた。
出入り口から1番席が近かったので、俺が扉を開ける。
そこに立っていたのは、よくここに来るヤンチャな少年。ニカニカと笑っているが、医務室に迎え入れた時にはびっこを引いて入ってくる。椅子に座らせ、様子を見ればどうやら軽く捻挫をしているようだ。
「はァ〜い!」なんて元気に返事をして、湿布を貼った後は椅子の上に座ったまま足を揺らしながら会話を始めた。悪化するから足を動かすなと言えば、再び元気な返事をして少年は大人しくする。少年は、真っ先にウサギに声をかけた。
きゃっきゃと騒ぐ少年。白は少年に茶菓子を出して、話に混ざり時折笑う。
そして、少年の視線は赤へと向かう。
ぱっちりとした緑色の瞳をジトっと半分閉じながら少年の頭をぐりぐりと押す様を見ると、確かにこいつは男なんだなと思った。ガキ同士仲は悪くないようだが。
少年は、3時間ほどキャッキャと騒いだ。昼になる頃には足首が痛くなくなってきたと言うので代えの湿布を何枚か渡して別れを告げる。
ふと、少年が帰った後で赤にそう言われた。
そう俺が返せば、青がコソコソと赤に耳打ちで言った。
そんな会話をしていれば、キノコが少々元気なさげにカーテンの隙間から顔を出した。
少年がいないかどうかを確かめて、そろっと出てきた彼。どうしたのかと訊くと、いつもの調子に戻ったキノコは口を開いた。
普段の上品な笑顔に似合わないようなしょぼくれた顔をするキノコは白に慰められていた。
パン、と手を鳴らして、赤色は俺を指差した。
キリッとした顔。何を言っているんだと思った。
それで、俺は気づいた。
顔に熱が溜まる。
場はしんと静まり返っている。そんな中、「あらあら」とキノコが笑えば、赤はひとつ提案を持ちかけてきた。
そこまで言われてやっと気がついた。
俺はひとつ勘違いをしていたようだ。
「そうじゃない」と否定をすれば、再び「あらあら」と背後で笑い声。
顔を隠しながらソイツの方へと向けば、「なになに」と前の方で声が聞こえる。
キノコと白に笑われて、内心
その後、コソコソとした喋り声が聞こえ、前の方がスッと静かになった。
ふと前へと向き直れば、顔を赤くして俯く赤色。
2、3秒ほどして、彼は口を開いた。
俺も赤も、目を合わせようとはしなかった。
もうその場は、会話なんてできる状態ではなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!