第4話

3 エーデルワイス
47
2024/02/28 05:30
「お茶」その言葉は覚えていたらしい。ヒカリの悪かった機嫌は最高潮と言っても過言ではないくらいに達した。ぶっちゃけ、白は料理上手だ。白の恋人も料理は好きだったみたいで、料理している時は思い出に浸ってる感じがして好きらしい。
白の淹れた紅茶や珈琲、緑茶など、ハズレはない。嗜む程度とは言っていたが、店を出せるんじゃないかってレベルだ。
白
やめてください。こぼしたら拭くの俺なんですから
ヒカリ
ヒカリ
ン〜〜!ン〜〜!
相変わらず、2人は仲がいい。そんな様子をベッドの上から見ている彼は、時たま包帯を弄っている。
黄
あんま触るな。巻くの大変だったんだぞ
赤
お前、巻くのヘッタクソだな〜
普通に頭にきた。
赤
こんなんじゃ血止まらんでしょ
どうやら彼は、包帯の用途を止血だけだと思っているようだ。
そんな頭の足りていない死に損ないに、優しい俺はちゃーんと教えてやった。
黄
包帯の用途は主に衝撃などからの傷の保護、ガーゼ・福子の固定、その部位を吊り下げたりする為にある。それを理解した上でその発言をしたのなら、お前が巻いてみろ
赤
ほぇ〜
だろうな。そう思った。
どうせわかってないんだろうと思ったよ。こいつは本当に同じ群れの住人なのかと思うほどには野生的だ。
どうせ鬱血するくらいの無理矢理な止血法なんだろうな。
どうでもいいか。
白
お茶入りましたよ
こっちに向かって呼びかけてきた白。棚のすぐ横にある本棚を漁っていた赤色は、話なんて聞いていないようだ。
黄
ほら、お茶入ったって言ってんだろ
再び声をかければ、赤色は顔を上げた。
開いた本の内容が分からず、困惑した顔。
黄
...お前バカなんだな
赤
黙んな
彼は2ページと読まずに本を戻した。オーバーベッドテーブルをふたつ取り付けて、その上に全員分のティーカップと菓子を置く。もちろん、この赤色の分もある。
椅子をベッドの横に置いて、側から見れば大変頭のおかしい見た目だ。カーテンに囲まれた個室で、患者のベッドを取り囲むように医者たちが座って、お茶会をする。多分、世界初だろうな。
黄
お前マジでこぼしたらヒカリペレットの角でボッコボコにするからな
もちろん、アホは話を聞いていない。
患者が黙ったので、そちらを見る。

酷く驚いた顔をした。鳩が豆鉄砲食らったみたく、元々デカかった目を更に見開いて、硬直している。
黄
ほら、飲めよ
その言葉を聞いて、ハッと我に帰ったかのように口を開く赤色。
赤
えっ、いいの?
宝石が太陽に透かされたみたいに目を輝かせて、心底嬉しそうな顔をして、彼は言った。
黄
おん。包帯が汚れんのは嫌だから顔面の包帯は剥ぐがな
そう言ってやれば、今は両腕が器用に使えない彼は俺にずい、近づいた。
包帯を剥がしてやれば、赤色は幸せそうに笑う。
今まで、誰かと食事したことがないんじゃないかと思うくらいには、儚げで可憐だった。
...何考えてんだろ。今のナシ。
その時、ガララ...と元気なさげな音が入り口から聞こえた。
黄
個室から外に出て、入ってきた人物を見れば、腐れ縁のあいつ。
青
...ただいま
黄
おかえんなさい
それだけの会話をして、青の幼馴染は思い出したかのように俺に聞いてきた。
青
あ!あの女の子どうだった!?生きてる!?
酷く心配したような顔。でも、疲労が勝るような声。
黄
あぁ、元気だぜ。あとあいつ男だったわ
「元気」と聞いて「よかったぁ」と笑った。
2、3秒時間が経ってから、青は口を開く。
青
え?男?
黄
おん
青
マ?
黄
ま。
結果、青は硬直。ビジーカーソルと「読み込みに失敗しました」が1番似合う、何かをしてる途中で急に時が止まったかのような固まり方をした。
...2、3、4..
時間だけが過ぎていく。
黄
お茶あるけど飲むか?
青
飲む!!
俺が声を掛ければ、疲れてるとは思えないくらいの声で返答があった。こいつはこんな奴だ。バカで、お人好しで、子供らしい。昔からこの3点セットは変わらない。
黄
白〜、もう一杯淹れてくれ
白
はいはい、
俺がお茶を淹れられないという事ではない。ただ、俺が淹れたのよりも白が淹れた方が絶対に美味しいから。それが理由だった。
黄
お前そっちに椅子持ってって座ってろ
青
は〜い!
白がお茶を一杯、青が座ってる前に置く。
青
ダージリン?
白
はい
まぁ、だろうな。
青はお茶会が好きだ。バカアフタヌーンティーでも喜んで参加する。それもあってか、紅茶や珈琲、菓子の種類には俺よりも圧倒的に詳しい。んで、そんなお茶会バカは死に損ないの患者に声をかけた。
青
ん〜〜、やっぱ男って分かんないよ...
赤
くたばれ
そこまで患者に顔を近づけて良くみている訳ではないが、よく見たとしても俺らには見抜けないだろう。
それ以前に患者の言葉が汚いので、そこを注意した。
黄
おい口汚ねえぞ
赤
おくたばりあそばせ〜っ!
黄
違うそうじゃない
真面目なんだかそうじゃないんだかよく分からない解答だった。
ただ、青はそれを上回った。
青
正味ワタクシも誤りがちなお嬢様ですの〜っ!お気になさらず〜っ!
何を言ってるんだ。
赤
うるせえ雌犬ですこと!内臓引きずり回してやりますわ〜っ!
青
やめていただきたいわァ....
青はノリがいい。だからこの返答をするのも分からなくは.....いやよく分からないが、患者に至ってはその顔面と声と搬送された理由からは想像もできない下劣で醜穢な言葉がつらつらと流れ出る。

もちろん青もそれに全て乗っかれるわけではない。楽しげではあるが。会話を続ける元気が、彼にはなかったらしい。
黄
その汚ねえ口も縫い合わせてやろうか?
赤
え〜、じゃあお茶会終わってからでい〜い?ボク誰かと食事すんの初めてなの!
口を縫い合わせられることに対して抵抗はないらしい。
黄
それに頷けば、焦った様子で白と青が止めに入る。
青
え、ちょ、嘘ですよねキイロサン...?
白
ドクターちょっと言い過ぎです...やめてくださいね
黄
...
もちろん、本当に縫い合わせなんてしない。彼らの静止の声に返事はしてやらなかったが。
赤
あ、そういえばさ
ふと、口汚い患者が口を開く。
赤
ボク多分これ内臓もイってるよね?食べて大丈夫かな、痛いのキライなんだけど
御名答。もちろん大腸から胃にかけてざっくりとイっていた。よく分かったな、とか言ってやろうとおもったが、それより先に青が口を開いた。
青
ん〜大丈夫じゃない?ピクミンって割と再生能力高いし
黄
ウーパールーパーじゃないんだぞ
大丈夫である保証はない。ただ、大丈夫じゃない確信もない。
赤
ん〜、まぁ痛くなったらそれはそれでいい思い出ってことで
アホは既にカップに口をつけて、まだ熱い紅茶を飲んでいた。
包帯を外した患者を見て、白は酷く驚いていた。
白
本当だ....目が...
心配気に患者を見つめる白。そんな彼に、患者は口を開く。
赤
ん、そ。目ェなんか変でしょ
まぁ、確かに変だ。左目は濃いエメラルド色の透き通った色で、瞳孔は白くバッテンを描いていた。問題は右目だ。
真っ黒な強膜、瞳は藤色のバッテン。淡く光る藤色は、ほんのり闇に包まれた強膜を照らす。
白
それ...痛くないんですか?
赤
んー、気づいたらなってたし、痛くないけど痛いのかも。わかんないや
曖昧な回答。それに続けて赤色は白にきいた。
赤
それよりキミの右目のが痛そうだよ。跡もくっきり残ってるから冬とか痛いんじゃない?
そう言われて、白は図星を突かれたようだ。右目の上、琥珀色の瞳に手を重ねる。赤紫色の傷口をなぞりながら、白は想いにふけるような声で口を開いた。
白
...そうですね、冬場や刺激があれば痛みます。ですが、とても大切なものですよ。
赤
え、なにドM?
こいつは本当に....
黄
知らんヤツを庇ったお前なら分かるだろ。あんま揶揄うな
「アハハ」と楽しげに笑う赤色。
赤
んで?ほんとのほんとはど〜してそんな傷あるワケ?自分で傷つけるようなヒトには見えないけど
確かに、気になった。俺はこいつから傷ができた原因は聞いてないし、出会った時には既に傷跡になっていた。
ただ、こんな初対面の奴が踏み込んで聞いていいモンじゃない。白はパーソナルスペースも広いし、警戒心も強い。こんな事話すようなヤツじゃないと思っていた。
白
あぁ、俺には恋人がいましてね、その人に付けられた傷です。...今は亡き人との最初で最後の爪痕ですよ
あ、話すんだ。
しかも、白の彼女が死んでいるのは知っていたが、まさか彼女に付けられた傷だったとは。それ以上深くは誰も探ろうとしなかったし、白も話そうとしなかった。そして、青も俺も、ひとつ同じことで気になっている事があった。
青
んで?君はさっき「気づいたらなってた」って言ってたけど、なんかあったの?
黄
あーそれ俺も思ったわ
「あーそういや言ったね」なんて赤色は言って、話を始めた。
赤
なんかね、ボクが生まれたばっかの頃の話。ボクほんと友達できなくってさ、それでひとりだけ仲良くしてくれた子がいたの。
流暢に、話が続けられる。
赤
んで、友達がすごく不思議な子で、みんなから怖がられてたんだって。それで、2人でいる時にさ、その子が原生生物に狙われてて、ボクが友達庇って死んだのよ
黄
は?
そいつは、そのまま何も不思議な様子は見せずに言った。
赤
それでボクは死んで、最期友達が逃げられたとこまでちゃ〜んと見たハズなのね。よく見えなかったけど。
この場にいる皆(アホは除く)、その話に聞き入っていた。
赤
したら、病室で目が覚めて、友達が死んでた。んで鏡見たら左目がこんな感じ。
「話長くてごめんね〜、話まとめるの苦手なの」なんて笑いながら言う彼。
それどころじゃなかった。
青
え、は?
俺も、青も、白も、もちろん意味を理解していない。
「友達が逃げられたのを確認して、気づいたら病室で目が覚めて、友達が死んでた。」
意味がわからない。
一同黙っていれば、白が口を開いた。
白
...そのお友達は...どこが不思議だったんですか?
赤
ん〜
少し間を開けて、赤色が口を開いた。
赤
なんかね、ウラナイとかノロイとか、スピ...スピルチアル?
黄
スピリチュアル?
赤
それ!なんかそういうのの話が好きだった!
その話を聞いて、白が何か心当たりがあるような声で一言。
白
それ、呪術の類いじゃないですか?
おちび
おちび
4000いきそうだったんで切りますわ
おちび
おちび
数字はサンキュウウ!!!
おちび
おちび
テンション上がるわ
おちび
おちび
8700字も書いといてまだ一日と経過していないっていう....
おちび
おちび
このシリーズも長くなるのかしらね!!!
おちび
おちび
あ、予定では少なくともあと3〜5人くらい重要?な登場人物増えますわ
おちび
おちび
んじゃあね










https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:LeontopodiumAlpinum-1.jpg
界  /植物界
門  /被子植物門
網  /双子葉類網
亜網 /キク亜網
科  /キク科
亜科 /キク亜科
連  /ハハコグサ連
属  /ウスユキソウ属
種  /セイヨウウスユキソウ
亜種 /L. alpinum ssp. nivale
    L. alpinum ssp. pamiricum

学名【Leontopodium alpinum】

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