真面目な顔して、そんなこと言うもんだから、青は苦笑いしていた。相変わらずアホはクッキーで頬を膨らませている。
言ってしまえば、青も俺もまぁまぁ頑固だ。だから青も俺も信じようとはしないし、興味自体はあれどマジになる気もなかった。呪術だとか幽霊だとかいう医学/科学的に証明できないコトは面白いとは思う。だが、それを信じるワケでは無いし信じる理由にもならない。「生きたい」という気持ちがあれば、手術などの成功・生存率は上がるとはよく聞くが、他人を呪いたいとどれだけ思ったとしてもできないと思っている。それはただひとりだけの感情論となんら変わりないから。...知らんけど。
ただ、今回は例外かもしれないと思った。
今、確かに白は「経験した」と言った。それが呪術かは知らないとは言ったが、医学/科学で証明できないもの経験の話は聞きたい。
沈黙が訪れた。
真っ先に口を開いたのは、今まで黙って話を聞いていた赤色。
こいつらは息が合うのかなんなのか...同類の匂いはするし仲も悪くはなさそうだが。俺の目が狂ってんのかもしれんな。
しばらく黙った後、白はゆっくり口を開く。
場は、凍りついた。それを理解していないように、ヒカリが入り口の方へと飛んで行った。
追いかけた先。首を傾げながらふよふよと浮いている。入り口のドアには見覚えのある影があった。
スライドドアを少々乱雑に開けば、本当に見覚えのある奴がそこにいた。
物静かで甲高くて、ぱっちりと開いた月のような瞳。まさかまたこいつがここに来ることになるとは...
とりあえず医務室に招き入れて、診察のために椅子に座らせた。
ベッドから出て来た赤色が、さっきまで俺が座ってた椅子の背もたれに捕まっている。
ケタケタと笑い声を上げるバカは、青と白に連れ戻されていた。
バカが戻されたベッドに向かって声をかけてやれば、「お前彼女できなそうだもんな〜!」と子生意気な台詞。お前だってそんな性格じゃ彼女なんてできそうにないな!と言い返してやろうかとも思ったが、今はこっちが先だ。
目の前にいる少女———俺らが勝手にウサギと呼んでいるそいつは、今まで常連だった奴だ。「だった」というのは、ここ半年ほど彼女がこの医務室に来なかったから。半年ほど前までは1週間に少なくとも3回は来るのに、この半年間姿を現さなかったものだから、流石にもう怪我してくることは無くなったかと思っていた。
ウサギの周りを興味津々に飛び回るヒカリの足?を捕まえながら、白はきいた。
ニコニコと、半年前と変わらない笑顔を浮かべながら彼女は言った。
俺がため息をつけば、ウサギは話を始めた。
信用されるのは嬉しいが、なんたって入院するほどの怪我を負ってここにくる羽目になっているのか...
白から逃れたヒカリは、フヨフヨとウサギの周りを浮いている。
ふと、顔をぐいっとウサギに近づけて、彼女の瞳を覗き込んだ。
俺にとって都合の悪いその問いには無視をした。
そう俺が告げれば、珍しく言うこと聞くヒカリ。なんだ、やろうと思えばできるんじゃないか。
どっちの肩が脱臼してんのかと思って、少しだけ触れてみた。
彼女は痛みを感じる事がないらしく、脱臼した部位に触れられても何にも問題はないようだ。まぁ、悪化したりしても困るからそんなには強く触らないが。
まぁ、こいつが片方の肩を脱臼したくらいで来る奴じゃないのもわかってるのである程度は察していたが、両肩ともイカれていた。
半年前に入院して、退院して、再び怪我をしたのではない。半年間の入院から退院するときに肩を脱臼してここまで来たのだ。何をしてんだよバカが。
「体も脆くなるのです」なんて言い方、まるで自分を物のように扱っているようであまり好きではない。
まぁそんな事は口には出さず、氷水をウサギの肩に当てた。
気持ちの悪い会話。カーテンの奥からは2人の笑い声が聞こえる。多分聞かれてる。
そう声をかければ、「だって〜」だとか言い訳が聞こえて来た。
その言葉が、妙に引っかかった。
「死ねてたら」なんて、まるで死にたいみたいじゃないか。やな奴。
...赤ピクミンには変なヤツが多いのか?目の前で患部を冷やされているウサギだって、とんでもない不思議ちゃんだ。半年前、彼女が入院する前、彼女に聞いてみた事がある。
「なんでこんなに怪我が多いんだ」
彼女から返ってきたのは、おかしな返答。
「だって、ここには怪我した人と病気の人しか来れないのですよ」
要は、ここに来る為に彼女はわざわざ怪我をしているわけだ。
「邪魔をしなければ別にいつ来ても構わない」とは言ったものの、「怪我をしてここにくる」と言うことに異様な執着があるらしい。
鈍感なのか鋭いのか、ウサギは笑顔のない瞳で笑いながら問いかけてくる。例えるならば「人形」。造られたように美しい顔立ちでもどこか不気味なそれ。夜に見たら大抵の奴が泣くと思う。俺は心臓が止まった。
ただ、もっと不気味な奴がいた。
ヒカリだ。
そうウサギが問うても、ヒカリは無言でウサギを見つめる。
シト、と湿ったような音をたてて、ヒカリの手がウサギの頬に触れた。
返答があったのを皮切りに、ヒカリの挙動が怪しくなった。下劣な事では一切ないが、彼女は一応怪我人だ。何かがあってからでは遅いので、再びヒカリがウサギに触れるより先に奴の注意をそらした。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Pansy_aka.jpg
界 /植物界
階級なし /被子植物
階級なし /真正双子葉類
階級なし /バラ類
目 /キントラノオ目
科 /スミレ科
属 /スミレ属
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。