そうヒカリに声を掛ければ、ぱぁっと顔を明るくして楽しげに飛び回る。
そう告げてやれば、ぴたりと止まって大人しくする。所詮、コイツもガキだ。自分に都合の悪い事は極端に避ける。
コイツが何歳かなんて知らないが。
コイツはガキ以前の問題なようだ。
半ば無理矢理...いや、全部無理矢理ついて来たコイツ。
先ほど足腰がぶっ飛んでくっつけられたとは思えないほど元気に歩いている。
本当に何を言っているのか分からない。不思議な奴ってことにしておこう。
ドクターは怪訝な顔をしながらあの重症患者さんの方を見ている。ヒカリは相変わらずウサギさんにへばりついていて、興味津々なようだ。
名前をただひたすら呼んで、周りを飛び回って。
まだ日も落ちていない夕方だからか、彼の体がいつもより透明な気がする。
そう告げてやれば、ヒカリは元気に頷いて、ウサギさんからほんの少しだけ離れた。あぁ、相当気に入ったんだななんて、ウサギさんを物のように扱う言葉はよくないけれど。
ドクターは重症患者さんから目を離そうとはしない。まぁ俺も同じ立場なら絶対に目は離さないが。
ドクターは重症患者さんの千切れていない方の腕をガシッと強く掴む。
精一杯の嫌味を込めた声を張った重症患者さん。そんな事したら嫌われるのはわかっているだろうに、ドクターの不器用なところはこう言う時に出るんだなと思った。
ドクターも嫌味を吐かれたくらいでヒンヒンするような人ではない。「精々俺の手間にならないようにな」なんて嫌味を言い返していた。
ほら、そういうところ。初対面でここまで仲良くなれるのは最早2人の才能なんじゃないかなとも思う。
その時、すぐ横の茂みから音が聞こえた。
ガサ———
みんな、その音に気づいたようで。
そう皆さんに告げて、茂みに足を踏み入れた。
2、30歩ほど進んだあたりで、見覚えのある影が見えた。
一瞬、目が合った気がする。草の影に隠れて顔はよく見えなかったが、淡く光る懐かしい瞳が俺を捉えていた。絶対に。
あぁ、また会えた。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Kadsura_japonica_SZ17.png
界 /植物界
階級なし /被子植物
目 /アウストロバイレヤ
科 /マツブサ科
属 /サネカズラ属
種 /サネカズラ
学名【kadsura.japonika】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!