第2話

第一章 予兆
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2021/05/03 10:21 更新
ビル街を雑多な音が歩く。物憂げなトーンは時計を推し進めており、現在の時刻は午前10時。

桜田門の官庁街の片隅、警視庁の公安部リア充対策課のデスクで、恋路幸彦こいじゆきひこはパソコンをいじっていた。
海破 茂明
海破 茂明
お、やってるのか
海破茂明かいばしげあきは幸彦の様子を見て、感心といったところか嬉しそうな顔をし、そのまま隣のデスクに腰掛けた。

海破は幸彦の直属の上司にあたる。その姿はまさに熟練の刑事デカといったところで、頼れる存在の一つだ。
恋路 幸彦
恋路 幸彦
ええ。昨日渋谷で起きた件の報告書を……。なんでも公然わいせつ罪に抵触する勢いだったとか
幸彦はいたく真面目に返答した。パソコンのタイピングをする手は止めない。

リア充対策課は「リア充撲滅基本法」を地盤にして成り立っている。

法律上のリア充の定義は「公然の場でキス以上、またはそれに準ずる行為をしているもの」

となっている。

幸彦は一人欠けていることに気がついた。
恋路 幸彦
恋路 幸彦
あれ、大祓おおはらさんは?一緒じゃないんですか
海破 茂明
海破 茂明
ああ、そろそろくると思うが……
噂をすればなんとやら、入口からぬっと影が伸び、ハイヒールの床を突く音がした。
大祓 麻衣
大祓 麻衣
人に荷物を持たせたまま行かないでくれますかね?全部私がもってるじゃないですか
海破 茂明
海破 茂明
悪りぃ悪りぃ。いつのまにか持たせちまった
大祓は両手脇に抱えた紙袋を大きな音をたて、デスクに置いた。
恋路 幸彦
恋路 幸彦
なんですか、それ
大祓 麻衣
大祓 麻衣
事情聴取をした際にいただきました。和菓子屋さんの方だったので、中身は和菓子でいっぱいです
幸彦は袋の中に手を入れようとしたが、ややためらい、そして手を引っ込めてまたパソコンを見た。暗くなっていた画面をエンタキーで元に戻す。
海破 茂明
海破 茂明
あ、そうだ。恋路、大祓。課長が呼んでたぞ。それが済んだら行っとけ
恋路 幸彦
恋路 幸彦
……わかりました
大祓 麻衣
大祓 麻衣
了解です

課長のお呼び出しも気になるところだったが、幸彦は目の前の課題を片付けることに集中した。

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