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第5話

さくら色の記憶
49
2018/04/02 10:41
重いまぶたをあげるとそこは白い天上――――病院の天上だった。
「私は・・・何・・・を?」
「咲希!咲希!」
お母さんが私の頭をだきかかえるようにして包み込んだために、目の前が見えなかった。
「もーお母さん!前見えない!」
目の前が開けた。と、お母さんはすごい困った顔をして目に涙を浮かべて
「咲希?記憶・・・戻ったの?」
「お母さんたら、何言ってるの?」
本当に覚えていないからそういうしかなかった。ボヤッと霧がかかった記憶が頭の中に確かにあったけれど、不安を大きくさせたくないから言わないことにした。涙を拭いたお母さんは
「先生呼んでくるわね。」
と言って部屋を出た。そよ風がふき、病室の窓が開いているのに気づいた。窓の外から桜の花がひらりと入ってきた。
「早咲き桜か・・・。」

ふと振り替えると、桜の景色のなかには沢山の人の笑顔が溢れていた。と同時に私の周りには沢山の人が居たことを思い出した。すると、
「あ、あれ?」
涙がポロポロと溢れてきて止まらなくなった。色んな感情でぐちゃぐちゃで。私の記憶のなかには沢山の色で彩られた笑顔も涙も、色んな感情が色んな想いがあったんだね。
「あ。」
突然ある言葉が降りてきたから、私は近くのメモを切り取ってリュックにあったペンで書き記した。

『生きてることで、心が彩られる
  たくさんの仲間ができる
笑顔も涙も 怒りも驚きも喜びも
今ここにいるからこそ感じられるんだ
桜が散るように 儚くそして華やかな人生
    たくさんの愛で溢れて
きっとさくら色に染まるから
     今を生きよう 今を笑おう』

コンコンとドアが鳴った。ドアがあくとそこにはやよいと湖夏と渉が居た。
「咲希ーー!」
「咲希が戻ったぁ!」
「それ二度目だって。」
嬉しくて、嬉しくて一言では言い表せない。桜がひらひらと春の訪れを知らせ、そしてこの瞬間を共に喜んでいるようだった。
と、渉の存在を忘れていた。鼻をすする音がして気づいたが、涙を流していた。
「良かったなぁ、尾井河。」
もーとティッシュを渡すと、二人が耳打ちをして
「あ、じゃちょっと飲み物買いに行ってくるわ。」
「ちょっとね。アハハハ。」
ガラガラとドアが閉まり、私と渉は二人きりとなった。渉はまだティッシュで頬の涙を拭いている。
「渉。」
「ん?何?」
「私、渉のこと好きだって・・・さっき気づいた!」
ちょっと言い方を間違えたと思ったがもう引き返せない。
「本当に?」
私は大きくうなずいた。
「俺も、好き・・・だ・・・よ。」
顔を真っ赤にして渉は言った。また一片の桜がひらひらと舞い降りてきた。
「「おめでとー!」」
ガラッとドアが開いて二人が入ってきた。私たちは笑った。嬉しくて面白くて幸せで。

記憶を無くしたことは人生の1ページに刻まれた。たった1つのことがたくさんの愛してくれる仲間と溢れる色を教えてくれた。皆にも人生はたくさんの色で溢れていることを知ってほしい、そして大事に生きてほしいから私はこの物語を1つの小説(ストーリー)として、今満開の桜の花びらにのせて届けます。あなたの記憶にもちゃんと色づきますように🌸

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