第9話

9話 仲良し……?
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2020/09/17 09:00
いつもと違って、
優しい顔で微笑む藤ヶ谷 昌に戸惑う。
あなた

(なんなんだ、この顔は……。
話すたび、いろんな表情を
見せてくるから、困る)

美園 みくる
美園 みくる
ふふっ
つい見惚れていると、
みくるの笑い声で私は我に返った。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
ん? みくるちゃん、
どうしたの?
美園 みくる
美園 みくる
ふたりって、最近ますます
仲良くなってるよね
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
えっ、嬉し──
あなた

ありえない!

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
そんな全力で拒否しなくても
あなた

黙ってくれ。
私には親友の誤解を解く
任務がある!

私は隙あらば近づいてくる
藤ヶ谷 昌の鼻をつまんで遠ざける。
美園 みくる
美園 みくる
そうして、ムキになるところが
怪しいなあ。ふふっ
あなた

(あっ……みくる、笑ってる)

さっきまで怯えて強張っていた
みくるの表情が緩んでいることに
気づいて──ほっとする。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
……もう、否定しなくていいの?
あなた

からかわれるのは
不本意だけどな、
みくるが笑ってくれるならいい

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
……あなたちゃんは、
誰かのために、そんなふうに
優しく笑うんだね
美園 みくる
美園 みくる
優しいんだよ。あなたは
あなた

なんなんだ、ふたりして
褒めちぎって。
新手のいじめか?

美園 みくる
美園 みくる
ふふふっ
あなた

もう……

あなた

(まあ、みくるの笑顔のためだ、
仕方ない)

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
じゃあ、そろそろ俺は
仕事に戻るよ
あなた

あ……

あなた

(そういえばこいつ、
バイト中だったんだよな)

あなた

ありがと……な

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
え……
あなた

私たちのため、なんだろ。
いろいろあったから、心配して
そばにいてくれたんじゃないのか?

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
……俺が可愛い女の子たちと
いたかったからだよ
歯の浮くようなセリフを吐いて、
藤ヶ谷 昌は仕事に戻っていく。
あなた

(ああは言ってるけど、
本当に私たちのためだった
んだろうな)

あなた

(やっぱ、いいやつだ)

***

藤ヶ谷 昌のバイトが
終わるのを待ってお店を出ると、
私たちはみくるを家まで送った。
あなた

じゃ、カギはしっかり
閉めるんだぞ

美園 みくる
美園 みくる
うん
あなた

念のため、枕元にスマホと
私の貸した竹刀を常備して
おくこと!

美園 みくる
美園 みくる
いつも枕元に立て掛けて
あるよ
あなた

それから──

美園 みくる
美園 みくる
あなた、もう大丈夫。
さすがに、家の中までは
入ってこないと思うから
あなた

あ……つい、心配で。
ここで話してるほうが危ないよな。
ごめんな?

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
そうだね。早く入ったほうがいい。
一応、家でも油断しないで、
気をつけて
美園 みくる
美園 みくる
うん、ありがとう。
ふたりがいてくれて、心強いよ
みくるが薄っすらと
瞳に涙を滲ませながら、
家の中へと入っていく。

鍵がガチャッと音を立てて
閉まるまで待つと、
私は藤ヶ谷 昌に向き直る。
あなた

今日は助かった

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
いいよ、俺も役得だったしね
あなた

役得?

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
困ってる女の子助けたら、
あわよくば……ってことに
ならないかってさ
あなた

そんなこと言って、
本当に私たちが困ってたから、
助けてくれたんだろ

藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
買い被りすぎだよ
あなた

とにかく、ありがとな。
じゃ、私はここで

あなた

(私はこいつの評価を変えなきゃ
いけないらしい)

あなた

また明日

軽く手を挙げ、
私は藤ヶ谷 昌に背を向ける。
あなた

(本当はいいやつだったんだな!
みくるのこと、助けてくれたし)

家に向かって歩き出したとき──。
藤ヶ谷 昌
藤ヶ谷 昌
こ、こら!

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